大阪高等裁判所 平成元年(ネ)2546号 判決 1990年7月19日
控訴人 株式会社 京都福田
右代表者代表取締役 福田稔
右訴訟代理人弁護士 高田良爾
被控訴人 山城菱光コンクリート工業株式会社
右代表者代表取締役 宮崎貞行
同 上原一晃
右訴訟代理人弁護士 立野造
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の昭和六一年八月二八日開催の第一三回定時株主総会における宮崎貞行、上原一晃、三原信三を取締役に、三田昭吾を監査役にそれぞれ選任する旨の各決議が存在しないことを確認する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
主文同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二主張
原判決の事実摘示のとおりである(但し、原判決二枚目表六行目の「被告は、」の次に「控訴人が欠席の」を、同三枚目表八行目の末尾に「控訴人は、本訴で不存在確認を求めている取締役三名及び監査役一名の各選任決議(以下「本件各決議」という。)につき、同訴訟で取消請求の対象としなかったが、このことは控訴人が本件各決議の瑕疵が商法二四七条一項一号に該当することを自認しながら、その取消請求を失念していたことを示すものである。」を加える。)から、これを引用する。
第三証拠関係《省略》
理由
一 控訴人が昭和五五年一〇月二〇日以降、被控訴人の発行済株式総数一〇万株の株式のうち五万株の株主であること、被控訴人が控訴人欠席の本件株主総会で本件各決議をしたこと、被控訴人が控訴人に対し本件株主総会の招集通知をしなかったこと、以上の各事実については当事者間に争いがなく、右争いのない事実と《証拠省略》によると、本件株主総会開催当時、被控訴人の株主は、控訴人と同数の五万株の株主である訴外上原成商事株式会社(以下「訴外会社」という。)の両名であったが、被控訴人は、訴外会社が被控訴人の発行済株式の全部である一〇万株の株主であるとして、訴外会社のみに本件株主総会の招集通知をしてこれを開催したものであることが認められる。
二 しかして、被控訴人は、本件株主総会の開催当時、被控訴人が控訴人との間で、控訴人の被控訴人における株主権の存否を訴訟で争っていたことを事由に、控訴人に対して本件株主総会の招集通知をしなかったことに瑕疵がない旨主張するところ、《証拠省略》を併せると、
1 被控訴人主張の右訴訟は、控訴人が昭和五五年一〇月二〇日に訴外会社から五万株の被控訴人の株式(以下「本件株式」という。)の譲渡を受けたことを理由に、これを争う訴外会社及び被控訴人を共同被告として、右五万株の株主の地位確認を求めるもの(第一審は京都地方裁判所昭和五八年(ワ)第八〇六号事件、控訴審は大阪高等裁判所昭和六三年(ネ)第九〇二号事件)であったところ、被控訴人らは、同訴訟で、本件株式の譲渡契約の意思表示を認めながら、これが通謀虚偽表示により無効である旨主張して争ったこと、
2 被控訴人が同訴訟で本件株式の譲渡の経緯として、「被控訴人は、控訴人に対し、訴外会社から本件株式を控訴人に譲渡した旨の通知があったこと、名義書換が完了したこと等を書面で通知した。」旨主張したのに対し、被控訴人は、「被控訴人が名義書換の手続を完了した旨等の書面を作成したことは認める。」と認否したこと、
3 同訴訟は、昭和六三年三月二三日に第一審で、平成元年一月二七日に控訴審で、いずれも被控訴人の勝訴判決があり、第一審判決が確定していること、
以上の各事実が認められ、右の事実によると、本件株式の譲渡については、当時、被控訴人の株主名簿では控訴人のための名義書換えがなされていた事情を推認することができ、また、仮に右名義書換えが現実にはなされていなかったとしても、被控訴人が控訴人の右名義書換請求に対し、正当の理由がないのに故意又は過失によって、これに応じなかったものと推認されるので、被控訴人の右主張は採用できない。
三 ところで、株主総会の招集通知もれの瑕疵は、商法二四七条の総会決議取消事由に該当するが、右決議の取消につき、方法、当事者、出訴期間の点で制限が設けられ、総会決議の法的安定性を確保する手段がとられているけれども、株主総会の招集通知は、株式会社の構成員である株主全体の会議体を成立させるための基礎的な手続であるから、招集通知もれの程度が高く、そのために株主総会ひいてはその総会での決議が法律上不存在と評価される場合には、総会決議の法的安定性のための制約を離れて、招集通知もれを事由に総会決議不存在確認を訴求することができる。
これを本件についてみるに、本件株主総会における招集通知もれの瑕疵は、全判示のように各五万株保有の株主二名の株式会社である被控訴人において、株数及び株主のいずれにおいても二分の一を占める五万株保有の株主一名を、株主でない者と扱い、これに招集通知をしなかったものであり、右扱いが全判示二の事実及び以下に判示の事情に徴して、被控訴人のし意的な判断に基づくものと考えられるから、かかる瑕疵ある招集通知による本件株主総会は、法律上株主総会と評価できないものであり、したがって、そこでの本件各決議も法律上存在するものと評価することができない。
なお、《証拠省略》を併せると、控訴人、訴外会社、被控訴人の三会社は、かねてから密接な取引関係にあったところ、被控訴人の営業成績の悪化に伴い、その全株式を保有していた訴外会社(代表取締役は上原一晃)が控訴人に協力を求めたことから、控訴人は、右求めに応じ、訴外会社が保有していた被控訴人の全株式の二分の一にあたる五万株の譲渡を受けたこと、控訴人、訴外会社、被控訴人の三会社は、右株式譲渡を被控訴人の内部の労働組合や外部の取引関係者に対して内密にすることを約して、被控訴人の業績の改善に協力していたが、その後に相互の思惑の相異が明らかとなって対立が生じ、訴外会社と被控訴人が控訴人を被控訴人の経営から排除しようとして現在に至っている事情が窺われるのであり、この事情からすると、被控訴人の控訴人に対する本件株主総会の招集通知もれは、被控訴人の意図的なものと見ることができる。
四 してみれば、本件各決議は、不存在であり、その確認を求める控訴人の本訴請求は、理由がある。被控訴人は、本件株主総会でなされた他の決議につき、控訴人が本件訴訟で主張している理由と同じ理由で、決議取消の確定判決を受けていること及び右取消訴訟で本件各決議の瑕疵が取消の瑕疵であることを自認しながら、右訴訟に本件各決議を加えることを失念したものであることを主張しているが、右自認の点についてはこれを認めるに足る証拠がなく、その余の点は、本件各決議が不存在と認定できる本件においては、控訴人の請求を排斥できる充分な法律上の理由となるものではないから、被控訴人の右主張は、採用できない。
五 そうすると、控訴人の本訴請求は認容すべきであり、これと異なる原判決は不当であり、本件控訴は理由がある。
六 よって、原判決を取り消し、控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 井上清 坂本倫城 裁判長裁判官舟本信光は、退官により署名捺印することができない。裁判官 井上清)